ある当事者会主催者の独り言 第4回

ある当事者会主催者の独り言 第4回

中高年発達障害者の困りごと:「日常生活」

 これまで3回にわたって、「みどる」中高年発達障害当事者会で、よく聞かれる成人期診断者の困りごとについてお話してまいりました。
 今回は、3大テーマの「人間関係」「仕事関係」「日常生活」から「日常生活」について取り上げます。
 定型発達の方であれば日常生活で難なくできることでも、発達障害があるとできないことも多く困ることが多々あります。それらの困りごとへの対処法や、自分だけで解決しようとせず利用できる制度を利用していくことも大事な生活の知恵と言えるでしょう。
 特に中高年になってから「できない」を克服しよう(させよう)とするのは「労多く益少なし」で二次障害にもなりかねません。よく会で言っているのですが「努力で克服できるのは苦手、努力で克服できないから障害」なのです。
 できないこと対策としては、現場の感覚として有効だと思うのは、大きく2つあり、一つは「環境調整」と言って「できないことをやらないで済む環境を作る」「支援してやってもらえる環境を作る」方向性で、もう一つは「できるようになる道具や仕組みを作るか探す」と言う方向性です。

公的制度の利用について

 「困りごと・できないこと」への環境調整の一つに、公的に支援してもらう=制度を利用することも挙げられます。
 ただし、公的支援は基本的に「申請主義」であり、利用できる条件を満たしている人でも、「こんな制度があって、あなたは利用できますが使いますか?」とは言ってくれないので当事者にとっては知らない制度も多く、利用までのハードルが高いことも珍しくありません。
 もちろん、行政の人的資源は限られているので「御用聞き」ができないのは理解できますが、現時点ではこちら側が制度を理解して申請する必要があります。
(今後はマイナンバー制度の活用で情報が行政に集まるので、ブッシュ型で制度の利用を促してくれるようになる可能性もありますが)
 知られていない制度の一例として、ADHDで部屋が片付けられずゴミ屋敷寸前と言う話はよく聞きますが、手帳を持っていれば、状況によって居宅介護(ホームヘルプ)が利用できることがあります。

 これらの制度については職業的支援者でも理解していないことが多く、うちの会では色々な制度を利用した経験者の話が貴重な情報となっています。
 なお、発達障害者向けの制度に関しては、「発達障害に関わる人が知っておきたいサービスの基本と利用のしかた」という書籍が現時点(2024年4月18日時点)では特におすすめです。
 発達障害者の支援に関する制度は、18歳未満は児童福祉法、18歳以上は障害者福祉法と根拠法が異なるので、制度上使える支援が異なるのですが、この書籍では18歳未満と18歳以上の制度が本の前半と後半ではっきり分けて書かれているのがわかりやすくて良いです。
 また、成人期診断者の定番の困りごとに、特性により一般就労が続きにくく経済的に困窮しやすいというのがあるのですが、公的な直接給付は障害年金くらいであるものの、障害者控除をはじめ、交通費や各種割引など、民間の制度を含めると経済的に負担を軽減できる制度があるので、制度について知っておくことは生活上の苦痛を少しは軽減するのに役立つでしょう。

「ライフハック」について

 先ほど「できないこと」対策として環境調整と並んで、「できるようになる道具や仕組みを作るか探す」と申しましたが、個人的には「ツールとルール」と言っています。
 健常者の社会でも、仕事などをうまくやる裏技として「ライフハック」と言うものがあり、発達障害者向けに物事をうまくやるためのノウハウが流通しています。
 最近ではX(旧twitter)上で「#ADHDのパワー系ソリューション」というタグで有益な情報が多く流れていました。Togetterでも「#ADHDのパワー系ソリューション よりぬきまとめ – Togetter」としてもまとめられていました。 
 ライフハックに対して、「小手先で逃げてもできないことは残るし、結局は自己理解を進めないと生きづらさはなくならない」という意見もあるのですが、多くの当事者はできないことの多さに気持ちが押しつぶされており、小手先であってもできないことや困りごとを減らしてストレスや負荷を減らし、余力を作ることは自己理解を進めるためにも有意義だと考えています。(この自己理解とライフハックの関係については、別途お話する機会があると思います)
 これらのライフハックに関する情報も、最近では書籍も増えていますが、やはり最大の情報源は当事者会になると思います。

「健康」について

 もうひとつ、「日常生活」で重要なのが「健康」です。
 発達障害を持つと二次障害や疲れやすさなど健康面に不安を抱えやすいので、そこも対策する必要があります。
 特に成人で精神疾患の既往症(特にうつのような症状)があると、身体的な不調があってもメンタル不調の影響ということにして、放置してしまうことがあるので、(中高年の会ということもありますが)不調を感じたら、メンタルのせいにせず、内科的な診断を受けることを勧めています。
 実際に、わたし自身、夏場に異常に汗をかいていたのですが、冷房病=自律神経失調だろうと放置してしまったせいで、実はバセドウ病で、後に心不全と合併症を起こして2週間ほど入院してしまった経験がありますので、不調を感じたら、メンタルのせいにせず、内科的な診断を受けることを勧めています。
 なお、そもそもの話なのですが、自立支援医療(精神通院医療)という制度があり、継続的な通院による精神医療(勿論、成人期診断の発達障害を含みます)には、公的な支給があり1割負担で診察を受けることができます(自治体によっては所得によって、その1割分も負担不要で実質無料で治療を受けることが可能です)が、長年精神科に通院しているのに知らずに利用されていない方が案外多いので驚いています。

まとめ

 これまで全4回にわたって、成人期に発達障害を診断された中高年の困りごとについて「人間関係」「仕事関係」「日常生活」の3つにわけてお話してまいりました。
「みどる」中高年発達障害当事者会での2014年以来の経験が何らかの形で、皆さまのお役に立てれば幸いです。

 次回からは、発達障害に関連して、雑感から会の運営を通じて得られた経験など様々な内容について、できるだけ皆さまのお役に立てるような情報を意識して連載を続けて参りますので、引続きお付き合いくだると幸いです。

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