ある当事者会主催者の独り言 第2回

ある当事者会主催者の独り言 第2回

中高年発達障害者の困りごと:「人間関係」

 前回でお話したように、わたくし共の「みどる」中高年発達障害当事者会は相談機能を重視しており、わたしが代表に就任した2015年以来、延べ1000人以上の成人期診断者の困りごとを聞いてまいりました。
 その中で、成人期診断者の困りごとは、大きく「人間関係」「仕事関係」「日常生活」のどれかに属することがほとんどであることをお話しいたしました。
 今回は、その中でも「人間関係」にフォーカスして、どのような困りごとがあるのかをお話したいと思います。

 一言で「人間関係」といっても、相手との関係性で困りごとも様々です。
 人間関係の困りごとも相手の立場によって、大きく3つに分けられるというのが、経験則です。具体的には、「家族」、「支援者」、「友人・知人」の3種に分けられるように思っています。

「家族」との人間関係

 まずは「家族」ですが、更に「親子」「配偶者」「兄弟」とそれぞれに異なる問題があるようです。
 特に対親に関しては、最近「毒親」という言葉が流行語のように使われるようになりましたが、広く言われているように発達障害には家族性があると言われています。
(まさにそこを主題にした精神科医による「毒親の正体」という書籍すらあります)
 ご本人が親について語るエピソードを伺っていると、診断の有無や程度の強弱はともかく、親側にも特性があることでマイルールを子供に押し付けていたことが不満の理由になってるケースが多いように思います。うちの会の場合ですが、もうご本人も40すぎの大人なので、ご不満の内容が親の特性由来のマイルールによる干渉で、さして気にしなくていい可能性を検討することを勧めることが多いです。

 「対配偶者」というと、すぐに浮かぶのがマスコミで一時よく取り上げられていた「カサンドラ症候群」ですが、実際に夫のカサンドラを訴える妻側のお話を聞いていると、発達特性由来の問題があると思えるエピソードはせいぜい3割で、多くのエピソードは、単に滅私奉公で会社中心の中年男性によくある家庭や妻を顧みない夫の姿であることが多いです。(もちろん、そのような男性の態度は許されるものではなく、女性側が一方的に譲歩を強いられている現状は好ましくありません)
 ですので、カサンドラを訴える方には、まず一般に、日本の中年男性の多くは家事や妻とのコミュニケーションに興味を持たず、そういう夫のロジックを理解して、対処を考えることをお勧めしています。具体的には次の2冊の書籍を勧めています。
 「話を聞かない男、地図が読めない女」:これは、男女の性差による物の見方の違いをこれでもかと教えてくれます。夫の「わがまま・無関心」に不満のある女性が読めば、夫がなぜそのような行動を取るかがわかることでしょう。なお、一方、なぜ女性は「無駄話ばかりするのか」など、どうして女性がどうでもいいことばかりに細かいのかと思ってる男性にもお勧めで、これ一冊読むだけで、女性との人間関係スキルはかなりあがると思っています。
 「夫のトリセツ」:こちらはまさにタイトルのとおりです。書籍紹介からそのまま引用します。→「話が通じない」「わかってくれない」「思いやりがない」「とにかく気が利かない」……腹立たしい夫を見捨てる前にこの一冊。

 兄弟との関係は、あまり会で主だった話題としては出てきません。
 40代以上の会なので、兄弟には没干渉であることが多いのと、親の介護の分担などは発達障害とは関係ない課題だからでしょう。(逆に一般的な親の介護の話題として兄弟の分担の話題は多少出ますが)
 ただし、伝聞ですが、ひきこもりの8050問題が関係すると、「自分はひきこっているが兄弟に迷惑かけたくない」あるいは逆に「ひきこもってる兄弟がいるが、親の死後に面倒を見るのは経済的に無理」など、深刻なケースがあるようです。
 特に、相続が絡むと一般でも「争族」になりがちな兄弟ですが、親がひきこもりの子が困らないようにと、ひきこもりの子に多く遺産を残す遺言を残していたりすると、「働いて親の面倒もみてきた自分が少なくて、怠けてたアイツが多いなんて絶対に承服できない」と面倒なことになるようです。

「支援者」との人間関係

 「支援者」と言っても範囲は広く、「職業的に(ときにボランティアで)発達障害の自分に関わる人」ぐらいの意味です。
 自分を支援してくれている方たちに、要望や状況を的確に伝えられず、望むような支援が得られなかったり、誤解されてしまうようなケースがしばしばあるようです。

 まずは「支援者」の筆頭は「医師」です。発達障害の診断があるということは、医師との関係があるということでしょう。
 医師の診察に関する相談で、多いと思うのは「診察終わってから、聞きたいことが沢山あったのにと後悔する」ことです。
 通院する場合は、事前に「質問したいこと」「報告したいこと」「要望」を紙に書いておくことをお勧めします。
 この質問を紙に書くという行為自体で、単に病院に行って医師に丸投げというのではなく、医療に何を期待しているか、自分は症状の何を問題にしているかなどを自覚することもできるようになり、診察前に医師に聞きたいことをメモする習慣はつけておいて損はないと思います。

 次に、行政を含む福祉関係者の方ですが、これは人間関係というより、純粋に「情報のコミュニケーション不足・ミス」の問題だと思っています。
 福祉関係者の方に人間関係的な意味で、不満を持ってしまうのは、こちらの要望を汲み取ってくれないと思うときだと思います。
 この場合、問題は「こちらが相手に上手に要望を伝えられていない」あるいは、「支援者に『この人はこう支援しよう』」という見立てがある」だけど、「その趣旨をこちらが理解できていない」か「それは、こちらの希望にあっていない支援」だというコミュニケーションができていないことが原因だと思われます。
 提案がこちらの希望でない場合は、してもらっているのに申し訳ないと思わず、丁寧にこちらの意向を伝えるようにすることをお勧めしています。

「友人・知人」との人間関係

 友人ができないという話もよく会で出ます。
 しかし、よく聞くと本当に一人もいないのではなく、一人か二人しかいないということが大半です。
 それに、さらに詳しく聞くと、実際に話したかったり遊びたいのに、友達がいなくて困っているという方はほとんどおらず、なんとなく友達のいない自分が寂しいと感じているだけの場合が多いです。
 実は、40代になると友人の数は激減するそうで、実際に一人もいない方も珍しくないのだとか。
 となれば、無理に友人を作らなくてもよいし、一人二人の友人を大切にすればよいのではないでしょうか。

 次によく出る話題としては、「知人と雑談ができない」という件です。
 雑談が苦手は、ASDの方あるあるで、より具体的に言えば「意味のない(社交的な)会話ができない」ということになるのだと思います。
 脳機能の問題で、オチがつかない話は気持ちが悪いのです。
 よく言うのは、「無理に話に入らなくてもいい」「ましてや、自分から話を振らないといけないと思わない」ということと、「(気持ち悪いにはわかるが)オチを追求しない」ということでしょうか。状況にもよりますが、個人的には「自分が興味を持てない話題は、あえて質問をしてみる」という方法を使っていますが、これはあまり参考にならないかもしれません。
 「雑談ができない問題」は頻出なのですが、よい方法がありましたら、こちらこそお伺いしたいテーマ・課題でもあります。

まとめ

 ここまで、成人期診断者が課題感を感じるテーマのうち「人間関係」について「家族」「支援者」「友人・知人」に分けてお話してまいりました。
 ところで、感の良い方は、「職場」が抜けているとお感じになるかもしれません。
 事実、「上司・同僚との人間関係」には課題感を持っている方が多いのですが、これは「人間関係」ではなく「仕事関係」だと考えています。
 その理由は次回の「仕事関係」で改めて、お話させていただきたいと思いますのでご期待下さい。

 今回も最後まで、お読みいただきありがとうございます。