ある当事者会主催者の独り言 第3回
ある当事者会主催者の独り言 第3回
中高年発達障害者の困りごと:「仕事関係」
前回、前々回と「みどる」中高年発達障害当事者会で、よく聞かれる成人期診断者の困りごとについてお話してまいりました。
今回は、3大テーマの「人間関係」「仕事関係」「日常生活」から「仕事関係」について取り上げます。
基本的に大多数の人は、生活のために働かざる得ないわけですが、自営業・自由業で独立しない限り、雇用されて働くことになります。
雇用されて働くということは、組織に属してその意向にそって働くわけですが、そこで組織に馴染みにくい発達障害者ならではの苦労に多々直面します。
(余談ですが、発達障害の人は独立して起業したり、フリーランスになるのが良いのではという議論を時々耳にします。しかし、個人的な意見ですが、組織に属するのが苦手という理由だけで、独立して事業を行うのは必ずしも得策だとは思っていません。なぜなら、組織で働く以上の苦痛であることが珍しくない苦手が必ずついてくるであろうからです。具体的には、ASDの人が苦手な営業と、ADHDの人が苦手な経理や書類処理は自営業であれば避けられません。)
ですので、組織で働くことを前提に考えますが、「仕事関係」の困りごとは、就職していない方にとっては「適職探し」、現在就職している方にとっては「職場サバイバル」がテーマになることでしょう。
「適職探し」について
わたくし共の会は40歳以上の方が対象ですので、現在就職されていない方と言っても社会人経験があることが前提になります。
発達障害を持つ方は、転職回数がどうしても多くなるようです。
職場に馴染めない理由は大きく2つあるように考えていて、一つは職業適性とのミスマッチです。
犯しがちな失敗としては、「やりたいこと」と「できること」は別だと意識せずに仕事選びをしてしまうことです。そこは自分ひとりでは気が付きにくいことなので、まずは公的な機関で、自分の職業適性を理解した上での就職活動がおすすめです。
具体的には各地にある「地域障害者職業センター」で、ハローワーク(公共職業安定所)と協力して、就職に向けての相談、職業能力等の評価、就職前の支援から、就職後の職場適応のための援助まで、個々の障害者の状況に応じた継続的なサービスを受けることができます。
更には、より生活に密着した支援を受けながら就労を検討したい人には、「障害者就業・生活支援センター」という施設の利用も検討して良いと思います。
もう一つの理由としては、仕事の能力・スキルのミスマッチとは別に、職場とのミスマッチというのがあると思っています。
それは、職場探しの際に、合理的配慮のすり合わせ不足や、(障害の有無の)オープン(公開)やクローズ(非公開)の選択の失敗、その他多くの要因が考えられますが、多くの失敗事例に共通するのは、自身の意向の明確化不足や、相手側の希望への理解不足で、とにかく就職できればいいと準備不足のまま就職してしまったということでしょう。
職場探しにあたっては、事前の企業研究も重要ですが、ハローワークや障害者転職エージェントなどの支援者とのコミュニケーションも重要だと考えています。
障害者転職エージェントについては、民間のサービスなので、公的な福祉制度だけに乗っていると知ることがないかもしれませんが、好条件の案件を抱えていることもあり、一定以上の職歴がある方は障害者転職エージェントの利用は検討の価値ありだと思っています。
実際、「みどる」では「自力でネット検索してうちの会を見つけて、参加してこうしてお話ができる方であれば、エージェントに相談してみる価値はあると思います」と言っています。
「職場サバイバル」について
既に何年も働いている人でも、長年の経済不況で経営環境と労働条件が悪化し、発達障害がなくてもリストラ候補にされ、不安を持っている中高年の方は多いと思います。
まして、発達障害があると、ミスが多い、上司の意向通りに仕事ができないなど、評価が低く、能力の割に年齢も高いので給与が高く、社内でも居心地の悪さはもちろん、リストラにおびえている中高年発達障害者は多くいます。
最近では、産業医に言われて発達障害の診断がついたというケースも急増していますが、以前は、中高年期に発達障害の診断を受ける人は、職場での度重なるトラブルや挫折によるメンタル不調が受診のキッカケであることが多かったくらいです。
(ちなみに女性の場合は、子育てでお子さんに特性が見つかり、療育の中で「お母さん、あなたもです」と医師に言われたというパターンが多いようです)
対策については、これは千差万別ですが、基本的には、まず「自分の何が問題にされているのか」を把握し、「なぜ、どういうときにその問題を生じるのか」を理解し、対策を立てることになりますが、まさにこれは「言うは易く行うは難し」の典型で、それができないから苦労するのが発達障害だということかもしれません。
ただ、具体策として言えるのは、圧が強く鬱などの適応障害になりそうで転職したいという場合は、ギリギリまで頑張らずに、メンタルに余力のあるうちに転職活動をすることを強くおすすめしています。
個人的な経験談でもありますが、燃え尽きるまで頑張って鬱状態になって退職してからの求職は、再就職までに年単位の時間がかかることもあり、経済的に破綻し、在籍中の就活と違って条件が更に悪いところにしか行けないことがほとんどです。
「上司・同僚」との人間関係
前回の連載で取り上げた困りごとのテーマは「人間関係」でしたが、職場の人間関係は「みどる」中高年発達障害当事者会では、「人間関係」の問題としては扱わないというお話をいたしました。
それどころか、会では「職場の上司・同僚との関係の悪さを『人間関係』の問題と思っているうちは解決しない」ぐらいに言っています。
それは、なぜでしょうか?
職場の人間関係は、友達ではなく仕事ベースです。つまり、職場の人間関係を決定するのは仕事なのです。
もっとハッキリ言います。職場で、上司や同僚からのあたりの強い人は、対人関係スキルが低いのが原因ではなく、仕事がポンコツで、上司や同僚が迷惑を被っていることが原因であることがほとんどだからです。
「あいつと組まされると俺がいつもカバーさせられる」「あいつに命令すると、自分でやるより時間がかかる」。当然、そんな同僚や部下にはあたりがきつくなります。
ミスが多い、相手の希望通りの仕事になっていない、それが毎日積み重なっての職場の人間関係の悪さなのです。
多少、愛想が悪くても冗談が通じなくても、仕事が早くて正確であれば、別に職場では人間関係は問題にならないでしょう。
つまり、職場の人間関係の問題を解決するためにフォーカスすべき点は、コミュ力ではなく、仕事で迷惑をかける回数を減らすことなのです。
対策として言えるのは、これも上の「職場サバイバル」と同じで、「自分の何が問題にされているのか」を把握し、「なぜ、どういうときにその問題を生じるのか」を理解し、対策を立てるのが基本なのですが、できたら苦労しないという話でもあります。
ただし、コミュ力の問題だとか、意地悪な上司・同僚だと思っているよりは、自己理解が最大の鍵と意識することが解決の第一歩だと知るだけでも状況は好転するかもしれません。
一つ具体的に言えるのは、特に上司との軋轢に関してですが、「上司が仕事のどこに重点をおいているのかを意識する」ことです。
特に発達障害があると、自分の判断で仕事の目的を想像して動いても、上司の意向に反してしまい、一生懸命やってるのに評価されないどころか怒られたというケースが多いように思います。
具体的な例を挙げると、営業で上司が「とにかく今は売上よりもブランドイメージを大事にし、上流層の顧客を育てたい」と思っているときに、「庶民層に薄利多売で利益と売上を出した」としたらどうでしょうか?
上司としては、ブランドイメージが下がり、将来の上流層への売り込みがやりにくくなったとしか思わない一方で、やった本人は、売上出して利益もあげているのに何で怒られるんだとしか思わないでしょう。
自分だけ一生懸命でも、(特に発達特性があると)上司の思惑と逆になってしまうことは珍しくないのです。
発達障害を持つ人は生真面目で、会社や顧客のために仕事をしようとしているのかもしれませんが、実際にコントロールするのは上司なので、誤解を恐れずに言えば「仕事は顧客や会社のためではなく、上司のためにやる」ぐらいに考えるのが正しいようです。
少なくとも、仕事を命じられたときに、自分が仕事の目的を理解したら上司にその内容の確認を取るだけ(例:「今回は利益重視ですか、シェア重視ですか?」)でも、上司の「人間関係」が良くなるかもしれません。
まとめ
今回は中高年の成人期診断者の困りごと三大テーマ「人間関係」「仕事関係」「日常生活」から、「仕事関係」を取り上げました。
制度的に成人期診断者への公的支援で一番整っているのは就労支援分野だと考えていますが、それでも好待遇の求人を持つのは障害者転職エージェントであり、民間の組織なので、既存の福祉制度に乗っているだけでは知る機会がなく、他の困りごと同様に情報収集が重要なのかもしれません。
会でも、仕事関係は経済面で死活問題に直結するだけに、困り感を持つ人が少なくありません。
ある老舗当事者会の創立者が「発達障害が辛いのは、障害特性そのものよりも、それを持つことによって稼げる立場に居続けるのが難しく、経済的に困窮してしまうからだ」と言っていたのですが、わたし自身もそれを痛感したことがあります。
最後まで、お読みいただきありがとうございます。